人気のない木陰に座っていると、この世界には自分しかいないんじゃないかと錯覚してしまう。
人口そのものが少ないのだから、ちょっと歩けばこういう風景はどこにでも広がっているのだけれど。
別に、一人物思いに耽りに来たのではない。ただの昼寝だ。
鳥の声と風の音を聞きながらそよ風を感じていると、あっという間に眠くなってきた。


ライオンの群れに囲まれて捕まりそうになったところで目が覚めた。
夢見が悪かったせいか、頭は全然スッキリしていない。
どれくらい経ったんだろう。時計も何もない世界では太陽の位置でおおよその時間を把握するしかないのだが、暗くなる前に帰れば良いや程度に考えながら今日まで生きてきたので、全く分からなかった。
空気がなんとなくオレンジっぽくなった気がするから、16時とかだろう。
そんな事より変な体勢で眠っていたせいか、背中がとても痛い。

「よっ……おわぁ!」

立ち上がろうとしたら、突然上から何かが降ってきた。
降ってきたと思ったらふわりと華麗に着地した。

「なーんだ、ほむらか」

避けようとして尻餅をつく形になった私を、じとりと見下ろしているのはほむらだった。普段は氷月の後ろをついて回っているのに、どうしてこんな所に。

「あっもしかしてほむらも」
「違う」
「ですよね……」

共犯だと思ったのに、言う前に否定されてしまった。
大方、私が一人でコソコソ怪しい事をしていないか監視していたんだろう。
あまりに彼女が真面目なので、逆に寝てただけですみませんと言いたくなってしまう。

「あああ待って待って!せっかくだから一緒に戻ろうよー」

忍者みたいな身のこなしで去ろうとするほむらに呼び掛けると、太い木の枝に登った所で漸く止まってくれた。

「……び、」
「へ?」
「無防備。こんな所で居眠りなんて」
「え、そこなの」

ちゃんと働けとか不審な動きをするなとか、そういう叱責が飛んで来るのかと思っていた。
むず痒い。普通に身を案じられているなんて。

「なんかありがと、ほむら」

素直に礼を言うと、照れ臭いのかはたまた呆れているだけなのか、そっぽを向かれてしまった。

「ライオンに襲われても知らないから」
「……私もしかして寝言言ってた?」



2020.4.7


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